この記事では、左官職人さんが使う「鏝(こて)」を選ぶ際に役立つポイントや鏝の種類など、左官職人から土間屋さんが使う鏝に関することを解説していきます。
また、現役現場監督である筆者がおすすめする鏝も合わせて紹介していきたいと思います。
左官工とは、建物の壁や床・土堀などに土やモルタル・漆喰などといった壁材を鏝と呼ぶ工具を使って塗り上げるお仕事をする職人さんです。
そのため、左官職人にとって鏝とは大事な仕事道具であり、日々の仕事を左右する工具でもあります。
最近では、DIVや個人でリノベーションなどで壁材を塗るときに鏝を使う方もいるかと思います。
そんな身近な鏝ですが、その種類は大変豊富にあるため、実は今使っている鏝が違う用途で使うものだったなんてこともあるかもしれません。
そこで、今回は左官職人さんなら知っておくべき鏝という工具について解説していきたいと思います。
鏝(コテ)とは?

まず、鏝とはどういった工具であるか解説していきます。
鏝とは、以下の通りです。
1.壁土やセメントを塗る道具。多くは鉄製で、平たい板に握り柄をつけたもの
2.和裁で、熱して布地のしわをのばしたり、折り目をつけたりする鉄製の道具。焼きごて
3.頭髪にウエーブをつけるために熱して用いる、はさみ状の整髪具。ヘアアイロン
4.鋳掛けのはんだづけなどに使う、先のとがった金属の棒に柄をつけた道具
引用:Weblo辞書
ここでは、1に説明されている左官工が使う壁面などを塗る鏝「左官鏝」を解説していきたいと思います。
ちなみに、溶接工が使う「焼きごて」、アイロンやヘアアイロンといったものも鏝に含まれるようです。
では、次に左官鏝にはどんな種類があるのか解説していきたいと思います。
左官鏝(コテ)種類を解説
左官鏝にはさまざまな種類があります。
レンガ/ブロック鏝(コテ)
レンガ鏝/ブロック鏝とは、壁材を攪拌・すくう・塗る・ならすなどの用途に使われる鏝です。
左官工の作業全般に使われる鏝ではありますが、名前から特にレンガやブロックといったものと積み重ねるときの作業で扱いやすい鏝となっています。
レンガ鏝とブロック鏝の違い

レンガ鏝は、形状が丸く、攪拌・すくう・塗るといった汎用性のある鏝となっています。
そのため、レンガだけでなくブロックを積み上げる際にも使用することができる鏝とされています。現場ではオカメとか言って使ってる職人がいます。
一方、ブロック鏝は先端が細長く平らになっているので、モルタルをブロック縁に塗る、ブロック穴に流し込むといった作業に特化している鏝となります。
形状から、左官工全般で扱うことは難しく、先端が平らで細長いので慣れていないと、モルタルをこぼしてしまう可能性があります。
そのため、ブロック鏝を扱う際は、より専門性を求められる熟練された作業が必要になってくるといえます。特にモルタルをコテ板でこねて、ブロックにモルタルを配っていくブロック職人は見ていて楽しくなります。
外構工事やエクステリア工事では職人は1日でブロック100本積めるぐらいの歩掛で考えてますが、200本積めるとプロですね。
土間鏝(コテ)土間仕上げ コテ 種類
土間鏝はその名の通り、土間にモルタルを敷く、敷き均し、押さえ均しのときに使う鏝です。
塗る面積が大きく、面積の広い土間での作業を効率よく進めてくれる鏝です。金鏝仕上げと言われる仕上げで土間屋の抑え方で職人の腕がよくわかります。
シゴキ鏝 (コテ)
シゴキ鏝とは、左官工の作業で「しごく(壁材などを擦り付けて塗る方法)」作業をするときに使う鏝です。
他の鏝と違うのは、モルタルなどの薄塗りをしやすくするために、接地面の金属製部分が「しなる」ようになっています。
そのため、他のモルタルに比べて鏝も薄くできているので「シゴキ作業」に特化した鏝といえるでしょう。
モルタル鏝(コテ)
モルタルは、セメントと砂と水を混ぜて作る建築材料です。
セメントの成分の中には、強いアルカリ性が入っているため、モルタルを扱う場合は手袋などをして作業にあたらなければなりません。
当然、このアルカリ性は鏝をも劣化させてしまうので、モルタルを扱う時には耐久性のある鏝を使用します。
そんな作業の時に使われる鏝が。「モルタル鏝」です。
モルタル鏝は、モルタルによる経年劣化がしにくく、鏝の劣化による塗りムラを防いでくれます。
また、鏝の接地部分には金属以外のゴム・合成樹脂・プラスチックといった素材を採用しているので、さびにも強い点があります。
面引鏝(コテ)
コンクリートを打設する際、角にあたる部分はコンクリートが割れやすく、強度が弱くなっています。現場ではピン角とか言われますね。これを面を取る作業で角部分を強化するために角を作る作業のことを「面引」と呼びます。
面引鏝は、この面引の作業に特化した鏝となっているため、角が付けやすいように側面が加工されています。
面引鏝は、その角の形状によって様々な種類があり、面引を行う部分によって鏝を変えながら作業をしていくようになっています。
目地鏝(コテ)
レンガやブロックなどを積み上げたり、敷くときは一度コンクリートをレンガ/ブロック鏝で塗っていくのですが、どうしてもモルタルがはみ出てしまいます。
作業で無駄に出てきたモルタルを削ったり、目地をきれいに仕上げる必要があります。
そうした、レンガやタイルなどの建築物を仕上げるときに使うのが「目地鏝」です。
目地鏝は、接地部分が細長く、他の用途と併用することはできません。
また、目地の幅によって種類は様々なので、目地幅によって鏝を使い分けるようにします。
プラスチック鏝(コテ)
壁材を塗るときや塗装にコテ跡をわざとつけたり、タイルの下地なのでコンクリート打設でタイルの付着をよくするようにザラザラに仕上げをするなど汎用性に優れた鏝となっています。
木鏝に比べて摩耗しにくく、最近では合成樹脂などを使用しているため、耐久性ああり、経年劣化しにくい特徴があります。
中塗鏝(コテ)仕上げコテ おすすめ
モルタルを塗る作業は、「粗塗り」→「中塗り」→「仕上げ塗り」といった大まかな流れで塗っていきます。
この中塗り作業で使われる鏝が、「中塗鏝」です。
中塗鏝は、形状が少し厚くなっていることと、先端がとんがっているものが多いことが特徴です。
左官工の中でも一番使われる鏝なので、鏝といえばこの中塗鏝が挙げられることが多いです。
角鏝(コテ)仕上げコテ おすすめ
角鏝は、仕上げ塗りによく使われる鏝です。
モルタルの押さえこみや、角部分の仕上げにも使われます。
形状は薄いものが多いので、その薄さを利用して「しならせて」扱うこともできる鏝となっています。
ツマミ鏝(コテ)
ツマミ鏝は、指先ほどの大きさしかない小さな鏝です。
主に面引といった細やかな作業に適しています。
クシ鏝(コテ)
クシ鏝とは、主にレンガやタイルといった建築材料を接着するときに使う鏝です。
通常の鏝だと接着剤があまり伸びないので、塗りムラが出てきてしまう可能性があります。
クシ鏝では、凹凸がある形状となっているため、溝に接着剤が均等に入っていくので、塗りムラなく接着剤と塗ることができます。
塗るイメージとしては、工作などで使う糊ベラで糊を塗るような感じで考えると分かりやすいかなと思います。
形状と用途について解説していきましたが、その種類の中でも材質によって更にその用途は細分化されます。
では、次に材質について解説していきます。
現場仕事で頼りになる練り樽はこれ。ドラム缶半切りOS-0060、RISU練り樽75 NT-75、【NB】ステンレスタル6…
鏝(コテ)の材質について
鏝の材質もその用途によって使分けをするポイントとなります。
鉄のコテを選ぶポイント

鏝(コテ)を選ぶときのポイント
では、鏝を選ぶときにはどのようなことに気を付ければいいのでしょうか?
先述した内容を踏まえて、選ぶときの押さえるポイントを解説していきます。
用途から選ぶ
鏝はその用途に合わせて様々な種類があることは、先述した鏝の種類から把握できたかと思います。
左官工の様々な工程で鏝を使いまわす職人さんもいれば、用途ごとに細かく使い分ける職人さんもいます。
一概に用途から選ぼうとせず、まずは自分自身がどういった作業をしてくことが多いのか考えていくと選びやすいかなと思います。
材質・形状・大きさから選ぶ
先述したように鏝には、その一つひとつの種類にも材質・大きさが違うものが多くあります。
用途だけでなく、作業によってこの材質や大きさにもこだわるとより左官工としてプロフェッショナルな仕事ができるかと思います。
一概に鉄といっても4種類ほどあり、製造工程によってその名称が違います。
「地金<半焼き<油焼き<本焼き」の順に固くなっていき、その固さの変化は製造過程で「炭素」の含有量によって変わります。
左官工はこの固さによって鏝を使い分けるとされています。
ステンレスコテを選ポイント
錆に強い材質であるステンレスを使ってる鏝を指します。
また、耐久性があるので形状としては固めのものが多いことが特徴です。
塗る際につるつると滑りやすくなっているので、扱いが少し難しい材質になります。
塗る方法としては、押さえながら塗ると滑りにくく表面が細やかに仕上がります。
プラスチックコテを選ぶポイント
プラスチックについては、先述したプラスチック鏝を指します。
他の材質に比べて軽いので、手への負担が軽減するメリットがあります。
ただ、プラスチックのため、形状が変化しやすく、腹部分が曲がってしまいやすいことがデメリットとなっています。
木鏝を選ぶポイント
他の材質とは違い、塗るときに滑らないので、平らにしやすいというメリットがあります。
ただ、木材なので塗ったときの表面が粗くなってしまうので、仕上げ作業で使うのには向いていないというデメリットがあります。
左官鏝(コテ)おすすめ道具5選!(中塗鏝編)

鏝について解説していきましたが、次におすすめの鏝について紹介していきます。
鏝は種類が多いので、作業で扱う頻度が高い「中塗鏝」のなかでもおすすめな鏝を紹介していきます。
左官工には必須!赤長(アカカネチョウ)中塗鏝
中塗りから荒仕上まで使うことのできる鏝です。
全体的な重さも軽いので、とても扱いやすいです。赤長中塗鏝は、中塗りから荒仕上げまで幅広い使用範囲を持つ鏝であり、壁材をすくい、壁面に押し伸ばしながら平らに塗り上げる際に最適です。この鏝は素材を下地に塗りつける中塗作業に適しており、
鏝板表面が鏡仕上げで汚れが落ちやすく、お手入れが簡単です。最適なサイズは210mmであり、作業箇所に合ったコテを使用することが重要です。赤長中塗鏝は、機能的で耐久性に優れており、壁塗りなどの中塗用に最適な道具として高い評価を受けています。
の信頼性と使いやすさから、多くの職人やDIY愛好家に愛用されており、中塗作業を効率的かつ精確に行うための必須アイテムとして重宝されています
また、DIYなどちょっとした作業でも使うことができるのも特徴です。
左官工になるなら宮谷製作所本焼 中塗鏝(コテ) 本職用
宮谷製作所の本焼 中塗鏝は、職人用の高品質な工具であり、その信頼性と耐久性は多くのプロフェッショナルから高く評価されています。
少し厚手になっているので、工具の使い始めは手に馴染みにくいデメリットがあります。
そのため、鏝を長年使いこむことで馴染むことから、熟練の左官工でしか扱えない本職用となっています。
使いこなすことができれば、仕上がりがきれいのなるだけでなく、汎用的に使えるようになります。
本格的!油焼仕上巾中塗鏝
油焼きは本焼きより高温の焼き戻しを行うので、炭素の含有量が多くなり、本焼きよりも固めにできています。
強度に優れた油焼き鏝は主に仕上げで使うことが多いですが、中塗りでも使うことができるほど、厚手となっています。
洗い出し工法や中塗り作業に特化した専用鏝であり、その使い勝手の良さや耐久性から職人たちに広く愛用されています。
この鏝は、本焼3.5ミリ肉厚の材料から作られた「人造鏝」であり、叩きや均し作業に適した重量を持つことが特徴です。また、火色と呼ばれる金色の風格も持ち合わせており、使い込むほどに手に馴染んで使いやすくなることから、職人たちの信頼も厚いです。
厚手の鏝はなかなか手に馴染みにくく、長年左官工として現場に立っていなければ扱うことが難しいのですが、油焼きは見習いの方でも本格的に仕上げることができます。
本格仕様!カクマン(本職用) スリム中塗鏝
こちらも本職の左官工に向けて作られた鏝となります。
カクマン(本職用)のスリム中塗鏝は、職人向けの高品質な工具であり、作業効率を高めるのに役立ちます。このスリム中塗鏝は、270mmのサイズであり、黒柄のデザインが特徴です。その堅牢な作りと使いやすさから、多くのプロフェッショナルが愛用しており、作業現場での信頼性が高く評価されています
少しスリムな形状になっているので、細かな場所でもきれいに仕上げることができます。
鉄なので少し重みを感じるかもしれませんが、その分強度に優れたものとなっています。
輝くステン 中塗鏝梶原鏝製作所 ヒシカ
少し小ぶりな鏝に見えますが、本格的に使用することができる鏝となっています。
梶原鏝製作所のヒシカシリーズは、中塗鏝として高い評価を受けており、その品質と信頼性は業界でも際立っています。このヒシカシリーズは、本職用左官鏝として設計され、焼入れを施さずに半焼きのねばりを活かした作りになっており、土や塗料の扱いに適しています。また、材料の付きがよく伸びが良いため、作業効率を向上させることができます。
ステンレスが含まれているので、錆に強く、耐久性のあるのが特徴です。
建築材料に問わず、幅広い作業で活躍させることができます。
まとめ
今回は、左官職人が扱う工具、鏝について解説していきました。
まとめますと、
- 鏝とは、壁材やブロック/レンガなど積み上げるときにモルタル・漆喰などといったものを縫って外壁や敷材を仕上げる作業をするときに使うもの
- 鏝の種類は多く、大まかに形状・大きさ・材質に分けられる
- 鏝は、その用途によって様々な種類を使いこなさなければならない
- 本職用鏝を選ぶようにする
ですね。
左官職人は、見た目の作業からしてとてもかっこいい職人さんだと思います。
熟練の技術が問われる厳しい世界ですが、是非興味のある方はその職業世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。